最終更新日: 2024年11月29日
住宅ローン減税は数ある税制優遇制度の中でも特に節税効果が高く、適用を受けられるかどうかで実質的な負担額に数百万円の差がつくこともあります。
この記事では、住宅ローン減税の適用を受けられなくなったり、本来の節税効果が得られなくなったりしないように、適用を受けるための要件と手続きの流れ、注意点をご紹介します。令和3年度(2021年度)税制改正による変更点も取り上げますので、併せてご確認ください。
【目次】
住宅ローン減税の基礎知識と令和3年度税制改正による変更点
住宅ローン減税の手続き方法
住宅ローン減税を利用するときの注意点
住宅ローン減税についてのよくある質問
住宅ローンを契約する際は住宅ローン減税の要件を満たしているか確認を
住宅ローン減税の基礎知識と令和3年度税制改正による変更点
まずは住宅ローン減税制度の基本的な仕組みと、令和3年度税制改正に伴う変更点について確認しておきましょう。
住宅ローン減税とは
住宅ローン減税(住宅ローン控除)とは、住宅ローンを利用してマイホーム(敷地となる土地を含む)を購入・取得した人や、リフォームを行った人を対象に、金利負担の軽減を図るための制度のことです。正式には「住宅借入金等特別控除」と呼びます。
一定の要件を満たす場合に、住宅ローンの年末残高または住宅の取得対価のいずれか少ないほうの金額(一般住宅の場合、最大4,000万円)の1%、年間40万円を上限に、最長10年間にわたり、所得税額から控除を受けられます(税額控除)。
所得税額から控除しきれない場合には、13万6,500円(前年度課税所得の7%を限度)を上限として、翌年の住民税額からも控除されます。
取得する住宅が新築・未使用の認定長期優良住宅、または認定低炭素住宅に該当する場合、控除対象となる住宅ローン残高等は最大5,000万円、控除限度額は年間50万円が上限となります。
消費税率10%の適用される住宅を取得した人は、控除期間が13年に延長される
消費税率10%が適用される住宅を取得し、2022(令和4)年12月31日(※1)までに入居した場合には、控除期間が3年間延長され、最長13年間にわたって控除を受けられる特例措置が適用されます。
延長される11年目〜13年目の控除限度額は、次の1と2のいずれか少ないほうの金額となります。
<11年目〜13年目の控除限度額の計算方法>
- 年末ローン残高または住宅の取得対価(上限4,000万円※2)のいずれか少ないほうの金額の1%
- 建物の取得価格(上限4,000万円※2)の2%÷3(消費税増税分の2%に相当する金額)
※1:令和3年度税制改正により延長。詳細は後述。
※2:新築・未使用の認定長期優良住宅、または認定低炭素住宅の場合は上限5,000万円
住宅ローン減税の主な適用要件
住宅ローン減税の適用を受けるには、次のような要件を満たす必要があります。
(新築住宅・中古住宅共通)
- 住宅の引渡しまたは工事完了から6ヶ月以内に自ら居住すること(別荘などのセカンドハウス、賃貸用住宅は対象外)
- 住宅の床面積が50平方メートル以上あること
- 住宅ローンの借入期間10年以上であること
- 住宅ローン減税の適用を受ける年の合計所得金額が3,000万円以下であること(※年収ではありません)
(中古住宅の場合)
- 築20年以下(耐火建築物の場合25年以下)であること
- 一定の耐震性能を有していること など
(併用住宅の場合)
- 床面積の2分の1以上が住宅ローン契約者の居住用であること
令和3年度税制改正による住宅ローン減税の変更点
令和3年度(2021年度)税制改正では、最長13年の住宅ローン減税対象となる契約期限、入居期限が延長され、控除対象となる住宅の床面積要件が緩和されました。
【変更点1】13年間の控除を受けるための契約・入居期限の1年延長
今回の改正により、最長13年間の控除を受けられる契約期限、入居期限がそれぞれ1年延長されています。
<契約期限>
注文住宅の場合 :2020(令和2)年10月~2021(令和3)年9月まで
分譲住宅等の場合:2020(令和2)年12月~2021(令和3)年11月まで
<入居期限>
2021(令和3)年1月~2022(令和4)年12月まで
【変更点2】控除期間13年の措置の延長分は住宅の床面積要件が40平方メートル以上に緩和
上記の期限内に契約・入居し、控除期間13年の住宅ローン減税の適用を受ける場合には、控除対象となる住宅の床面積の要件が「40平方メートル以上」に緩和されます。
この特例措置には所得制限があり、「合計所得金額が1,000万円以下」の人のみが対象です。合計所得金額が1,000万円を超える人は、従来通り「50平方メートル以上」の適用条件を満たす必要があります。
【番外編】直系尊属から住宅取得資金等の贈与を受けた場合の非課税措置の見直し
住宅ローン減税に関する変更点ではないものの、令和3年度(2021年度)税制改正では贈与税の非課税措置についても変更があります。この制度は、父母や祖父母など、直系尊属から住宅取得資金として援助(贈与)を受けた場合に、1,000万円(省エネ住宅等は1,500万円)まで贈与税が非課税となる特例です。
非課税枠は本来2021年4月1日以降、700万円(同1,200万円)に引き下げ予定でしたが、今回の改正によって、現行1,000万円のまま、2021年12月31日の契約締結分まで適用期限が延長されます。
上記の非課税額は、消費税率10%の適用される住宅の新築・取得の場合に適用されます。消費税率8%が適用される住宅の新築・取得、消費税がかからない売主が個人の中古住宅を取得等における控除額は500万円(1,000万円)が上限です。
またその年の合計所得金額が1,000万円以下の人が贈与を受けた場合、対象となる住宅の床面積の下限が「40平方メートル以上」に緩和されます(現行、50平方メートル以上)。
参考:「住宅ローン減税等が延長されます!~令和4年入居でも控除期間13年の場合があります~」(国土交通省)
住宅ローン減税の手続き方法
住宅ローン減税の適用を受けるには、入居した翌年の確定申告時に自ら申請する必要があります。会社員など給与所得者の場合、初年度(入居年の翌年)は確定申告による申請が必要ですが、2年目以降は勤務先に必要書類を提出すれば、年末調整で控除を受けられます。
ここでは給与所得者が住宅ローン減税の適用を受ける場合の手続きについて詳しくご紹介します。
初年度の手続き方法
住宅に入居した翌年に居住地を管轄する税務署で確定申告を行います。税務署の窓口に必要書類を持参するほか、郵送やオンライン(e-Tax)で提出することもできます。
<住宅ローン減税の申請に必要な主な書類>
書類 | 入手先 |
確定申告書 | 税務署国税庁ホームページ |
(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書 | |
本人確認書類の写し(マイナンバーカード、マイナンバー記載の住民票の写し+免許証など) | 市区町村役場 |
給与所得の源泉徴収票 | 勤務先 |
住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書 | 借入先金融機関 |
登記事項証明書 | 法務局 |
売買(請負)契約書 | 不動産会社(建設会社) |
中古住宅の場合:以下のいずれか・耐震基準適合証明書
・既存住宅性能評価書 ・既存住宅売買瑕疵保険の付保証明書 | 建築士など登録住宅性能評価機関
住宅瑕疵担保責任保険法人 |
認定長期優良住宅の特例を適用する場合:以下のいずれか・長期優良住宅建築等計画の認定通知書の写し
・認定長期優良住宅建築証明書 ・住宅家屋証明書 | 市区町村役場 |
認定低炭素住宅の特例を適用する場合:以下のいずれか・低炭素建築物新築等計画の認定通知書の写し
・認定低炭素住宅建築証明書 ・住宅家屋証明書 | 市区町村役場 |
確定申告書や(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書は、国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」から作成するのが便利です。
2年目以降の手続き方法
年末調整の対象となる給与所得者は、2年目以降、年末調整の際に勤務先へ次の必要書類を提出すれば住宅ローン減税を受けられます。
<年末調整で住宅ローン減税の申請をするために必要な書類>
書類 | 入手先 |
給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書(兼 年末調整のための(特定増改築等)住宅借入金等特別控除証明書) | 税務署 |
住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書 | 借入先金融機関 |
「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」と「年末調整のための(特定増改築等)住宅借入金等特別控除証明書」は一枚の用紙になっています。
申告書は確定申告をした年の10月頃、控除を受けられる年数分が税務署からまとめて送られてきます。
住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書は、毎年10月頃に住宅ローンを契約している金融機関から送られてきます。
年末調整で住宅ローン減税の申請を忘れてしまった人、年末調整の対象とならない人などは、原則通り確定申告を行えば控除を受けられます。
住宅ローン減税の控除期間中に転職した場合
住宅ローン減税の控除期間中に転職した場合も、転職先の年末調整でこれまで通り控除を受けられます。
ただし退職と入社が年をまたいで年末調整を行えなかった場合は、自身で確定申告を行わなければなりません。
住宅ローン減税を利用するときの注意点
住宅ローン減税を利用するときには、次のような点に注意が必要です。
借り換えを行うと住宅ローン減税の適用外になる場合がある
借り換え後の住宅ローンの借入期間を10年未満に設定すると、住宅ローン減税の適用を受けられなくなってしまいます。控除が受けられなくなれば、借り換えによって返済額を減らせても、実質的な負担が増えてしまうおそれがあります。
控除期間中に借り換えを行う際には、特別な事情がない限り、借入期間は10年以上に設定するようにしましょう。
また住宅ローン減税の適用期間は、入居開始から最長10年間(または13年間)であり、住宅ローンの借り換えによって控除期間が延長されることはありません。
ふるさと納税を併用すると控除額が減少するおそれがある
ふるさと納税と住宅ローン減税は併用できます。ただし、確定申告によりふるさと納税を行うと、住宅ローン減税によって控除できる金額が減少するおそれがあるため注意が必要です。
確定申告でふるさと納税を行った場合、ふるさと納税額から2,000円を引いた額が寄附金控除として所得から控除され、課税総所得が減少します。
所得税や住民税は課税総所得をもとに算出されるため、ふるさと納税をすることで課税総所得が減れば、所得税や住民税が減少します。
<確定申告を行う場合のふるさと納税と住宅ローン減税の控除の流れ>
- 課税総所得からふるさと納税の寄付額(寄付額から2,000円を引いた額)が控除される
- 控除後の課税総所得をもとに所得税や住民税が算出される
- 住宅ローン減税により所得税が控除される
- 所得税で控除しきれない場合は住民税から控除される
ここで問題になるのが、住宅ローン減税は所得税や住民税の金額を超えて控除ができないということです。住宅ローン減税の控除可能額は住宅ローンの年末残高の1%が上限ですが、課税総所得が減ることによって所得税や住民税が減少すれば、控除可能額よりも支払う税金の金額が少なくなり、控除しきれないケースが出てきます。
なお、ふるさと納税には条件を満たした場合に確定申告が不要になるワンストップ特例制度があります。ワンストップ特例制度を利用した場合、ふるさと納税で受けられる控除は課税総所得ではなく住民税から直接引かれるため、住宅ローン減税の控除額に影響することなくふるさと納税を行えます。
<ワンストップ特例制度を利用した場合のふるさと納税と住宅ローン減税の控除の流れ>
- 課税総所得をもとに所得税や住民税が算出される
- 住宅ローン減税により所得税が控除される
- 所得税で控除しきれない場合は住民税から控除される
- 住民税からふるさと納税の寄付額(寄付額から2,000円を引いた額)が控除される
ワンストップ特例制度を利用すると、ふるさと納税よりも住宅ローン減税のほうが早いタイミングで控除が行われるため、住宅ローン減税の控除可能額に影響しなくなるというわけです。
なお、ワンストップ特例制度は、次の3つの条件をすべて満たす場合に利用できます。
- 給与所得者などふるさと納税以外で確定申告をする必要がない
- 1年間の寄付先が5自治体以内
- ふるさと納税の申込みの都度、寄付先の自治体へ申請書を提出している
住宅ローン減税についてのよくある質問
頭金や繰り上げ返済、住宅ローンの形態が住宅ローン減税にどう影響するのか、還付金はいつ受け取れるのかなど、住宅ローン減税についてよくある質問にお答えします。
頭金を減らしたほうが住宅ローン減税の恩恵が大きくなる?
頭金を入れることで住宅ローンの借入額が4,000万円(認定長期優良住宅等の場合5,000万円)を下回る場合、頭金を減らして借入額を増やすことで、住宅ローン控除額が増える場合があります。
ただし、実際の控除額は、控除を受ける年の所得税額と翌年分の住民税額の一部(13万6,500円・前年度課税所得の7%が限度)を合わせた金額が上限です。
この金額が頭金を減らす前の住宅ローン残高の1%を下回っている場合は、頭金を減らして借入額を増やしても、控除額は増えません。
また頭金を減らすことで毎月の返済額や利息負担が増加するほか、適用金利が上がる場合もあります。
【【フラット35】】の場合、頭金が住宅取得資金等の1割以下(融資率9割超)と1割超(融資率9割以下)では適用金利が変わります。
<【【フラット35】】 借入期間21年以上35年以下・2021年3月の適用金利>
頭金割合(融資率) | 最多金利 |
1割以下(融資率9割超) | 年1.610% |
1割超(融資率9割以下) | 年1.350% |
頭金を減らして住宅ローン減税の控除額増加のメリットが期待できるかは、それぞれの状況により異なります。頭金の額により住宅ローン控除額、借入金利、毎月の返済額、利息額がどう変化するのか、シミュレーションを行い、実際の数字を見て判断しましょう。
繰り上げ返済と住宅ローン減税はどちらを優先させるべき?
住宅ローン減税の控除期間中に繰り上げ返済を行うと、ローン残高が少なくなり控除額が減るおそれがあります。
特に住宅ローンの借入金利が住宅ローン減税の控除率(最大1%)より低い場合、繰り上げ返済によって軽減される利息額を控除額の減少分が上回り、トータルでは負担が増えてしまいます。
このようなケースでは、控除期間終了まで待ってから繰り上げ返済を行ったほうが良いでしょう。
また返済期間短縮型の繰り上げ返済を行う場合、借り換えと同様に借入期間が10年未満になると控除を受けられなくなってしまいます。
収入合算して住宅ローンを組んだ場合の住宅ローン減税はどうなる?
夫婦でペアローンや連帯債務型の住宅ローンを組んだ場合、夫婦それぞれが住宅ローン減税を利用できます。
控除額は、ペアローンではそれぞれの住宅ローン残高に応じて、連帯債務型の住宅ローンでは物件の持分割合に応じて決まります。
夫婦で協力して住宅ローンを組む方法には、連帯保証型の住宅ローンもありますが、連帯保証人となる夫婦の一方は、住宅ローン減税を利用できません。
住宅ローン減税の還付金はいつ受取れる?
確定申告により住宅ローン減税の申請をした場合、還付金は手続き後1カ月から1カ月半程度で申告時に指定した預貯金口座に振り込まれます。還付金は預貯金口座への振り込みのほか、郵便局等に出向いて受け取る方法も選択可能です。
e-Taxを利用して電子申告をすると、書面申告よりも手続きは早く、通常2~3週間程度で還付金を受け取れます。
所得の申告がない還付申告は、1月1日から手続きができます。2〜3月は通常の確定申告で混み合うため、それより前に申告を行えば、通常よりも早く還付金を受け取れる可能性があります。
また年末調整の対象となる会社員などで、2年目以降年末調整により控除を受ける人は、通常12月分の給与に上乗せする形で還付金が支払われます(勤務先により還付時期は異なる場合があります)。
所得税額から控除しきれない金額分が生じた場合には、6月以降に支払う翌年分の住民税額から控除されます。
住宅ローンを契約する際は住宅ローン減税の要件を満たしているか確認を
住宅ローン減税の適用を受けるためには、物件の床面積や性能、住宅ローンの借入期間などの要件を満たしたうえで、自身で手続きをする必要があります。住宅ローンの契約や借り換え前には住宅ローン減税の要件を満たしているかよく確認しましょう。また控除期間中の繰り上げ返済やふるさと納税は控除額に影響することがあるため、慎重な判断が必要です。