最終更新日: 2024年11月29日
住宅ローンの金利タイプには一長一短があり、金利上昇に伴う返済額の増加をどの程度許容できるかによって、自身に合った金利タイプの選択は変わります。「変動金利は金利が上がって返済額が増えてしまうリスクがあって危険」「固定金利は金利が変動しないから安全」といった安易な判断はせず、それぞれの金利がどのような要因で変動するのか、そのリスクやメリット・デメリット、金利上昇への対処方法を正しく理解したうえで選ぶことが大切です。今回は、住宅ローンの金利の変動要因と金利上昇に備えるための方法についてご紹介します。
【目次】
住宅ローンの金利タイプの種類
住宅ローンの金利が変動する要因
住宅ローンの金利の変動に備えるには?
具体的な数字で考え、自身が許容できるリスクに応じた選択を
住宅ローンの金利タイプの種類
住宅ローンの金利タイプには、大きく「全期間固定型(固定金利)」「変動型(変動金利)」「固定期間選択型」の3種類があります。このうち、住宅ローンを借り入れした後に適用金利が変動するリスクがあるのは、「変動型」と「固定期間選択型」です。
全期間固定型(固定金利)
全期間固定型(固定金利)は、返済期間中の適用金利が一定の金利タイプであり、代表的な商品として【【フラット35】】があります。
全期間固定型の住宅ローンは、契約時に適用金利と総返済額が確定し、返済計画が立てやすいというメリットがあります。一方で、借入時点の金利は、変動型や固定期間選択型と比べて高めです。
独立行政法人住宅金融支援機構が発表した「住宅ローン利用者の実態調査(2020年11月調査)」によると、住宅ローンの利用者のうち、全期間固定型を選択した人の割合は12.6%となっています。
変動型(変動金利)
変動型(変動金利)は、返済期間中、一定期間ごとに適用金利が見直される金利タイプです。
変動型の住宅ローンは、ほかの金利タイプの住宅ローンと比較して、借入時点の適用金利が低いのが大きなメリットです。一方で、借入後に適用金利が変動するリスクがあり、金利が上昇すると月々の返済額や総返済額が増えるおそれがあります。
適用金利は通常半年ごとに見直されますが、元利均等返済を選択している場合、多くの金融機関では適用金利の変更に伴う返済額の見直しは5年ごとに行われます(5年ルール)。また見直し後の返済額は見直し前の返済額の1.25倍が上限となります(125%ルール)。
※元金均等返済では5年ルールや125%の適用がなく、適用金利が見直されるごとに返済額に反映されます。また元利均等返済でも5年ルールや125%ルールが適用されない金融機関や商品もあります。
「住宅ローン利用者の実態調査(2020年11月調査)」によると、住宅ローン利用者のうち62.9%が変動型を選んでいます。
固定期間選択型
固定期間選択型は、契約から一定期間の金利が固定化される金利タイプです。固定金利期間終了後は、再度固定金利期間を設定するか、変動金利へ切り替えるかを選択します。
一般的に全期間固定金利型に比べて当初固定金利期間中の金利は低く、返済額が変わらないメリットがあります。ただし固定金利期間終了後は、金利の上昇により返済額が増えることもあります。固定金利期間終了後に金利優遇幅が縮小する「当初引き下げ型」の場合、基準金利(後述)の変動がなくても適用金利が上がるため、特に注意が必要です。
「住宅ローン利用者の実態調査(2020年11月調査)」によると、住宅ローン利用者のうち固定期間選択型を選んだ人の割合は24.5%。そのうち固定期間10年超を選んだ人が48.0%と最も多く、10年が28.9%、5年が10.4%と続いています。
参考:「住宅ローン利用者の実態調査(2020年11月調査)」(独立行政法人住宅金融支援機構)
住宅ローンの金利が変動する要因
住宅ローンの金利タイプによって金利の決まり方や変動する要因が異なります。ここでは、各金利タイプがどのような影響により変動するのかご紹介します。
全期間固定型の金利の変動要因
全期間固定型の金利は、主に長期国債(日本国債10年物)金利の影響を受けて変動します。
日本国債10年物金利は、長期金利の代表的な指標であり、債券市場における将来の金利動向や物価動向に対する投資家の予想が反映されます。好景気や物価の上昇などで市場金利が上昇すれば、全期間固定型住宅ローンの新規借入金利も上昇する傾向があります。
変動型の金利の変動要因
変動型の金利は、短期プライムレートをもとに、各金融機関が「短期プライムレート+1%」のように基準金利(店頭金利)を設定します(金融機関によって設定方法には違いがあります)。
短期プライムレートとは、銀行が業績や財務状態の優れた最優良企業に貸し出しを行う際の最優遇貸出金利(プライムレート)のうち、1年以内の短期の貸し出しに適用される金利を指し、短期金利の代表的な指標である「無担保コール翌日物金利」の影響を受けます。
無担保コール翌日物金利は、政策金利として日銀の金融政策によりコントロールされており、結果的に変動型住宅ローン金利も金融政策の影響を受けて変動します。市場金利に変動があっても、金融政策(政策金利)に変更がなければ、基本的に変動型住宅ローンの金利は変動しません。
2021年2月現在の政策金利(無担保コール翌日物金利)は、マイナス金利政策によって低く抑えられており、変動型の住宅ローン金利も低水準で推移しています。
固定期間選択型の金利の変動要因
固定金利期間選択型住宅ローンの借入金利は、各固定金利期間に応じた「円金利スワップレート」が基準となっています。円金利スワップレートとは、固定金利と変動金利を交換する「金利スワップ」という取引において、短期金利に上乗せされる金利レートのことです。この上乗せ分の金利は、いわば固定金利期間中の金利変動リスクを回避するための「保険料」のようなものです。
金利スワップレートは長期金利と似た動きをするため、長期金利(日本国債10年物金利)が上昇すれば金利スワップレートも上昇し、これに伴って固定金利期間選択型住宅ローンの借入金利も上昇する傾向があります。
住宅ローンの金利の変動に備えるには?
金利の低さや返済額の少なさで変動型(固定金利期間選択型)を利用している人は、将来金利が上昇して返済額が増えるリスクも想定したうえで、どのような対策があるのか理解し、備えておくことが大切です。
繰り上げ返済を活用して早期に完済する
繰り上げ返済をして元金を減らせば、金利上昇による返済額や利息額の増加を抑えられます。繰り上げ返済には「期間短縮型」と「返済額軽減型」の2つの方法がありますが、返済期間が短縮される期間短縮型のほうが、金利変動の影響を受ける期間を短縮でき、通常、リスク軽減効果は高くなります。繰り上げ返済は返済総額を抑えることにも有効です。
ただし、繰り上げ返済によって、一時的に貯蓄が減少する点には注意しなければなりません。ライフプランの実現に必要な費用を確保し、突発的な支出に対応できるよう、繰り上げ返済の金額やタイミングは慎重に判断し、計画的に行うことが大切です。
金利タイプを変更する
住宅ローンを契約している金融機関で手続きすれば、変動型から固定期間選択型、あるいは固定期間選択型から変動型へ、金利タイプを変更できます(全期間固定型の金利タイプ変更、固定金利期間中の固定期間選択型から変動型への変更はできません)。
今後金利が上昇していくと予想されるケースや、借入後に子どもが生まれ、教育費の目処がつくまで返済額が増えるリスクを取りたくないときは、変動型から固定期間選択型への変更を検討しても良いでしょう。
ただし、変動型から固定期間選択型へ変更すると、その時点では適用金利が上がることが多く、金利が思ったほど上昇しなければ、むしろ返済額が増えてしまうおそれもあります。金利タイプの変更は、想定される金利上昇の程度や、返済額の増加をどの程度まで許容できるかを踏まえて慎重に判断しましょう。
全期間固定型の住宅ローンに借り換える
全期間固定型の住宅ローンを利用すれば、将来の金利変動リスクを回避できます。すでに変動型や固定期間選択型の住宅ローンを利用している人は、途中から全期間固定型に変更することはできないため、別の商品へ借り換える必要があります。
借り換える際には改めて金融機関の審査があり、必ずしも実現できるとは限りません。また変動型から全期間固定型への借り換えでは、借り換えた時点では金利が上がることも多く、繰り上げ返済手数料、融資手数料、ローン保証料、登記費用など、さまざまな諸費用もかかります。
借り換え前後の返済条件でシミュレーションを行い、毎月の返済額や諸費用を含めた総返済額を比較して、借り換えのメリット・デメリットを見極め、判断することが大切です。
具体的な数字で考え、自身が許容できるリスクに応じた選択を
固定金利は金利変動のリスクを回避するには有効な選択ですが、金利の上昇がなければ変動金利に比べて割高な金利を負担することになります。
金利が上がって返済額が増えるのは不安だからと、安易に固定金利を選択せず、金利が上昇すると返済額はどのくらい増加するのか、具体的な数字で考えることが大切です。
金利の上昇による返済額の増加が固定金利を選択したときの返済額を下回る、もしくは増加しても無理なく返済できる範囲内に収まるとき、または金利の上昇に対処する余力がある場合は、変動型または固定期間選択型を検討すると良いでしょう。金利の低い変動型は利息負担を抑えられ、元金の返済が早く進むため、結果的に金利上昇対策にもなります。やはり金利変動リスクはとりたくない、返済額を確定させたいという人は、全期間固定型を検討すると良いでしょう。