最終更新日: 2024年11月29日

2022年度の住宅ローン減税改正では、控除率が引き下げられ、高性能住宅をより優遇する内容へ変更された上で、適用期限が4年間延長されました。

今回の改正の背景には、住宅ローン金利が控除率を下回る「逆ザヤ」状態の解消や、高性能住宅の普及を推進したい政府の意向があります。

そこでこの記事では、住宅ローン減税制度がどのように変更されたのか、改正内容の詳細とその影響について解説します。

【目次】
住宅ローン減税制度はどう変わる?改正内容の詳細
制度改正に至った背景
住宅ローン減税制度改正によってどんな影響がある?
改正後は高性能な住宅を新築・取得する人に有利な制度に

住宅ローン減税制度はどう変わる?改正内容の詳細

2022年度の税制改正では、内容を変更した上で住宅ローン減税制度の延長が決まりました。改正に伴う変更点は、次の通りです。

制度内容を改正の上、適用期限を4年間延長

住宅ローン減税制度は2021(令和3)年末で適用期限を迎えましたが、今回の改正により制度内容を変更した上で2025(令和7)年末まで4年間延長されます。

控除率を一律0.7%に引き下げ

控除率は、従来の1.0%から一律0.7%に引き下げられます。

控除期間は新築住宅13年、中古住宅10年に

新築住宅(買取再販含む)に対する控除期間は、従来の10年から原則13年に延長されます。また、中古住宅(既存住宅)に対する控除期間は、10年のまま据え置かれます。

2024年以降、省エネ基準に適合していない新築住宅は住宅ローン減税の対象から外れます。ただし、2023年までに建築確認を行い、入居が2024年以降となった場合は対象です。この場合の控除期間は10年です。

借入限度額は住宅性能に応じて4段階に設定(中古住宅は2段階)

控除が適用される住宅ローンの上限額(借入限度額)は、住宅性能によって新築住宅は4段階、中古住宅は2段階で設定されます。

借入限度額

入居年(参考)
2021年
2022202320242025
新築住宅買取再販長期優良住宅低炭素住宅5,000万円5,000万円4,500万円
ZEH水準省エネ住宅※14,000万円4,500万円3,500万円
省エネ基準適合住宅※24,000万円3,000万円
その他の住宅3,000万円0円※3
中古住宅
(既存住宅)
長期優良住宅低炭素住宅3,000万円3,000万円
ZEH水準省エネ住宅省エネ基準適合住宅2,000万円
その他の住宅2,000万円

国土交通省|令和4年度国土交通省税制改正概要等をもとに筆者作成

※1:日本住宅性能表示基準における、断熱等性能等級(断熱等級)5かつ一次エネルギー消費量等級(一次エネ等級)6の性能を有する住宅。

※3:2023年までに建築確認を行った場合は2,000万円

新築住宅の場合、長期優良住宅・低炭素住宅の借入限度額は5,000万円のまま据え置き、ZEH水準省エネ住宅は4,000万円から4,500万円に引き上げ、省エネ基準適合住宅は4,000万円のまま据え置き、その他の住宅は3,000万円に引き下げられます。

中古住宅の場合、長期優良住宅・低炭素住宅、その他住宅の借入限度額は据え置き、ZEH水準省エネ住宅と省エネ基準適合住宅は引き上げられます。

新築住宅の借入限度額は2024年に引き下げが予定されており、特に長期優良住宅・低炭素住宅以外の引き下げ幅は大きくなっています。2023年までに建築確認を済ませていないその他の住宅は控除を受けられなくなる点にも要注意です。

所得要件は合計所得金額2,000万円以下に引き下げ

控除対象となる所得要件は、2021年までの合計所得金額3,000万円以下から2,000万円以下に引き下げられます。

基準は「年収」ではなく「合計所得金額」です。合計所得金額とは、給与所得や事業所得など各種所得を損益通算後に合算した金額で、所得控除や損失の繰越控除を差し引く前の金額をいいます。給与所得の計算では最大195万円の給与所得控除、給与所得のみの人は年収2,195万円以下であれば控除を受けられます。

新築住宅の床面積要件緩和の継続

新築住宅の床面積要件を50㎡以上から40㎡以上に緩和する措置は改正後も継続されます。緩和措置の対象となるのは合計所得金額1,000万円以下の人です。

中古住宅の築年数要件の緩和

中古住宅(既存住宅)の築年数要件は、1982(昭和57)年以降に建築された住宅(新耐震基準適合住宅)に緩和されます。

これまでは、耐火住宅25年以内、非耐火住宅20年以内、これを超える住宅は既存住宅売買瑕疵保険付保証明書、または耐震基準適合証明書の提出が必要でした。

制度改正に至った背景

住宅ローン減税制度改正の背景には、住宅購入支援による経済の活性化を図りつつ、住宅ローン金利と控除率の「逆ザヤ」状態の解消、環境性能などが優れた住宅の普及推進といった狙いがあります。

住宅ローン金利の低下による「逆ザヤ」状態の解消

長期にわたる低金利政策によって、住宅ローン金利も低下しており、変動金利では0.5%を下回る商品も少なくありません。借入金利が住宅ローン減税の控除率を下回り、多くの人が住宅ローンを借りたほうが得をする「逆ザヤ」状態にあったのです。

環境性能などが優れた住宅の普及推進

温暖化対策は世界的な課題です。政府も2025年以降の住宅の省エネ基準適合義務化を掲げ、環境性能が優れ、エネルギー消費の少ない住宅の普及を推進しています。控除限度額の上乗せによる優遇も、その一環です。

住宅ローン減税制度改正によってどんな影響がある?

住宅ローン減税制度の改正によって、どんな影響があるのか。控除額を試算して確認してみましょう。

住宅性能や新築・中古で控除額がどのくらい変わる?

今回の改正によって、対象となる住宅の性能によって控除額に大きな差がつきます。住宅の種類・性能ごとの最大控除額は下表の通りです(2022年入居の場合)。

最大控除額(2022年入居)

住宅の種類・性能控除率控除期間控除
限度額
年間最大
控除額
最大控除額
新築住宅買取再販長期優良住宅低炭素住宅0.7%13年間5,000万円35万円455万円
ZEH水準省エネ住宅4,500万円31.5万円409.5万円
省エネ基準適合住宅4,000万円28万円364万円
その他の住宅3,000万円21万円273万円
中古住宅
(既存住宅)
長期優良住宅低炭素住宅

ZEH水準省エネ住宅

省エネ基準適合住宅

10年間3,000万円21万円210万円
その他の住宅2,000万円14万円140万円

筆者試算

上記は最大控除額です。年末時点の住宅ローン残高が控除限度額を下回る場合や、控除対象者の課税額が少なく控除しきれない場合、実際の控除額はこれよりも少なくなります。

改正前と改正後で控除額はどのくらい変わる?

改正後はすべてのケース※で最大控除額が減少します(※新築住宅は、消費税10%で購入し13年の控除を受ける場合との比較)。控除限度額の引き上げや控除期間の延長よりも、控除率の引き下げの影響が大きくなる形です。

改正前後での最大控除額の比較

住宅の種類入居年
(改正前)
2021年
2022202320242025
新築住宅買取再販長期優良住宅低炭素住宅600万円※1455万円409.5万円
ZEH水準省エネ住宅480万円
※1
409.5万円318.5万円
省エネ基準適合住宅364万円273万円
その他の住宅273万円0万円※2
中古住宅
(既存住宅)
長期優良住宅低炭素住宅300万円210万円
ZEH水準省エネ住宅省エネ基準適合住宅200万円
その他の住宅140万円

※1:消費税10%で購入し、13年の控除を受けた場合(1〜10年目:年末時点の住宅ローン残高等×1%、11〜13年目:「年末時点の住宅ローン残高等×1%」と「建物の取得価格の2%÷3」のいずれか少ないほうの金額)

※2:2023年までに建築確認を行った場合は140万円

控除額の減少幅は、性能の低い住宅ほど大きくなります。特に2024年以降に建築確認を受ける新築住宅は、省エネ基準に適合していないと控除を受けられなくなります。

すでに住宅ローン減税の適用を受けている場合も影響はある?

今回の改正は、2022(令和4)年以降の入居者に適用されるため、すでに住宅ローン減税の適用を受けている人への影響はありません

また、2021(令和3)年度の税制改正における特例措置の対象となり、2022(令和4)年12月までに入居する場合には、従来の控除率1%、控除期間13年が適用されます。

【特例措置の対象】

契約期限:2020年10月〜2021年9月(注文住宅)、2020年12月〜2021年11月

入居期限:2021年1月〜2022年12月

改正後は高性能な住宅を新築・取得する人に有利な制度に

2022年の改正により、住宅ローン減税制度は長期優良住宅や低炭素住宅、ZEHなど、高性能な住宅を新築・取得する人に有利な制度に変わります。

高性能な住宅は、建築コストが割高になりやすい反面、税制優遇や補助金、光熱費の軽減といった経済的なメリットがあります。なにより長く快適に暮らせるのは大きな魅力です。

住宅ローン減税だけでなく、2025年の省エネ基準適合義務化など、今後は性能を重視した住宅選びがより一層重要になってくるでしょう。

投稿者

  • 竹国弘城

    1級FP技能士、 CFP認定者。
    証券会社、生損保総合代理店での勤務を経てファイナンシャルプランナー(FP)として独立。
    相談者の利益を第一に考え、自分のお金の問題に自分自身で対処できるようになるためのコンサルティングや執筆活動などを行う。

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