最終更新日: 2024年11月29日

世界的な好景気が続いていた矢先、新型コロナウイルスの感染拡大によって世界経済は突如大きな打撃を受けました。その影響はわたしたちの生活や収入などにも及んでおり、住宅ローンの返済が困難になる人も出てきています。返済が長期にわたる住宅ローンでは、返済期間中にこのような不測の事態によって状況が変化し、当初の計画通りに返済できなくなるケースもあります。

もし住宅ローンが返済困難になってしまったらどうすれば良いのでしょうか。住宅ローンが返済困難になる要因とその対処方法について確認しておきましょう。

【目次】
住宅ローンの返済が困難になる主なケース
住宅ローンの返済が困難になりそうな場合の対応の流れ
住宅ローンの返済方法変更ができない場合の対処法
住宅ローンの返済が困難になる前に対応する

住宅ローンの返済が困難になる主なケース

千田サヨ

住宅ローンの返済が困難になりやすいのは、主に次のようなケースです。

所属する企業の業績悪化による収入減

働いている会社の業績が悪化すれば、残業の削減などにより毎月の給料が下がったり、ボーナスがカットされたりするおそれがあります。労働時間の短縮だけにとどまらず、倒産やリストラともなれば大幅な収入減は避けられないでしょう。収入が減ればローンの返済負担は相対的に重くなり、その状態が続けばローンの返済は困難になっていきます。

直近では新型コロナウイルス感染拡大の影響により、多くの人が業務の制約や休業などを余儀なくされており、収入が減少し住宅ローンが払えないという声も上がっています。【フラット35】などを扱う住宅金融支援機構にはローンの支払いに関する相談が相次いでおり、相談件数は2月の約20件から、3月には約200件、4月は1,000件超と急増しています。

参考:『「住宅ローンが払えない」相談が急増 新型コロナ影響で』(NHK)

休職による収入減

会社の業績悪化のほか、自身の病気やケガ、家族の介護などのため休職せざるを得なくなり収入が減少するケースもあります。最近では病気やケガにより働けない状態(就業不能状態)になった場合、住宅ローンの返済が免除される団体信用生命保険(以下、団信)などもありますが、要件を満たしていなければ返済は免除されません。また団信の基本は死亡や高度障害状態の保障であり、そもそも保障対象とならないケースも少なくありません。このような場合には預貯金や傷病手当金、休業補償給付などから住宅ローンを返済していかなければならず、返済が困難になっていきます。

そのほか、教育費や親の介護費など、住宅ローン借り入れ当初の計画を上回る支出が生じ、返済が困難になるケースもあります。

住宅ローンの返済が困難になりそうな場合の対応の流れ

住宅ローンの返済が困難になりそうな場合は、滞納する前に借入先金融機関に相談することが大切です。

STEP1.住宅ローンの借入先へ相談

収入の減少などにより今後の住宅ローン返済に不安がある場合、まずは住宅ローンの借入先である金融機関に相談しましょう。

一時的な問題で見通しが立っているなら貯蓄を切り崩すなどして自身で対処できますが、問題が長期化しそうであればなるべく早い時期に相談すべきです。滞納前であれば、返済方法の変更にも応じてもらいやすくなります。

STEP2.返済方法の変更を依頼

返済方法の変更によって返済を継続できるのであれば、自身の経済状況などを踏まえ金融機関へ変更を依頼します。返済額を減らすための変更(リスケジュール)の方法には次のような種類があります。

  • 返済期間の延長
    返済期間を伸ばして月々の支払額を下げる方法。
  • 一定期間の返済額減額
    一定期間のみ月々の返済額を減額する方法。
  • 返済猶予
    一定期間元本の支払いを猶予してもらい、利息のみを支払う方法(利払い)。
  • ボーナス払いの変更
    ボーナスカットなどでボーナス払いが負担となっている場合に、毎月払いのみへの切り替えやボーナス払いの割合を減らす方法。

減額や猶予は負担を先延ばしにして返済を続けるための方法であり、負担が免除されるわけではありません。むしろ猶予期間や減額期間が終了した後の月々の返済額や総返済額は増加し、最終的な負担は増えてしまいます。このようなデメリットもよく理解しておく必要があります。

STEP3.金融機関による審査

返済方法の変更に応じるかは、金融機関の判断に委ねられます。審査の結果、契約者の状況や変更内容によっては変更が認められないケースもあります。

STEP4.変更後の返済方法での支払い

金融機関の審査によって返済方法の変更が承認されれば、指定の月から変更後の返済方法で支払いを行います。家計の経済状況が好転したタイミングで、元の返済方法に戻すことも可能です。

住宅ローンの返済方法変更ができない場合の対処法

金融機関に返済方法の変更が承認されなければ、別の方法で対処しなければなりません。そのまま滞納が続けば住宅ローンの一括返済を求められ、マイホームを手放さざるを得なくなってしまいます。

住宅ローンの借り換え

現在よりも金利の低い住宅ローンがある場合には、借り換えによって月々の返済額を抑えることも可能です。金融機関によっては返済期間を既存の住宅ローンの残存期間よりも長く設定できる場合もあり、さらに月々の返済額を抑えられます。

ただし住宅ローンを借り換えるには、改めて借換先となる金融機関の審査に通らなければなりません。住宅ローンの返済が困難になった理由が失業や転職、休職などによる収入の減少であれば、ローンの審査に通りにくい状況と言えます。

また借り換えには新しい住宅ローンの契約費用に加え、既存の借り入れの繰上返済手数料や抵当権抹消登記の費用などの諸費用がかかります。通常これらの諸費用は借り換え時に一括で支払う必要があるため、事前に資金を用意しておかなければなりません。すぐに用意が難しければ、借り換え後の住宅ローンの借入額に含めたり、諸費用ローンを利用したりできる場合もありますが、借り換え後の負担はより重くなります。

住宅の任意売却

住宅ローンの借り換えが難しい場合などには、借入先金融機関の同意を得て任意売却を行い、住宅ローンの残債を返済するのも一つの方法です。任意売却ではマイホームを手放すことになりますが、競売に比べて市場相場に近い価格で売却しやすいメリットがあります。退去の時期についても、売買契約によって当事者間で自由に設定できます。売却代金で返済しきれなかった残債は、金融機関の話し合いのもとで売却後に分割して支払わなければならず、返済だけが残ります。なるべく有利な条件で売却し、残債を少しでも減らすには仲介業者の選択も重要です。

金融機関から住宅ローンの一括返済を求められ、任意売却への同意も得られない場合には、マイホームは競売にかけられます。競売での売却価格は市場相場の7割程度になる傾向があり、売却代金が少なければより多くの残債を自力で返済する必要があります。また買手が代金を支払った時点ですぐに退去しなければなりません。

任意売却と競売はいずれもマイホームを手放すことに変わりありませんが、その後の負担を考えれば、なるべく競売にかけられる前に対処したいところです。

個人再生・自己破産

住宅ローンのほかにも多額の借金を抱え、住宅ローンの返済が困難な場合には、個人再生や自己破産により債務を免除してもらう方法もあります。

個人再生は裁判所に再生計画を提出し債務(借金)を減額してもらう方法です。債務は原則5分の1に減額され、減額後の債務を3~5年程度の期間で分割して返済します。住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用した場合、住宅ローン債務は減額されないものの、そのほかの債務が減額されます。住宅ローンの返済額は変わりませんが、他の返済額が減ることで返済を続けられれば、マイホームを手放さずに済む可能性があります。

自己破産は裁判所に破産申立を行い、すべての債務を免除してもらう方法です。自己破産が認められれば債務はすべて免除されますが、マイホームを含む一定以上の財産は手放さなければなりません。

住宅ローンの返済が困難になる前に対応する

住宅ローンは一度でも滞納すれば、優遇金利が適用されなくなったり遅延損害金が発生したりするリスクがあります。借入先金融機関の信頼が損なわれてしまえば、その後の選択肢も限られてきます。もし返済が困難になりそうであれば、滞納する前になるべく早い段階で金融機関に相談するようにしましょう。また返済が困難になるリスクを軽減するには、変化に対応できる強い家計をつくること。それには日頃から家計の状況をしっかり管理し、収入と資産を増やし無駄な支出を減らす努力しておくことが大切です

投稿者

  • 竹国弘城

    1級FP技能士、 CFP認定者。
    証券会社、生損保総合代理店での勤務を経てファイナンシャルプランナー(FP)として独立。
    相談者の利益を第一に考え、自分のお金の問題に自分自身で対処できるようになるためのコンサルティングや執筆活動などを行う。

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