最終更新日: 2024年11月29日
住宅ローンの融資実行までには、さまざまな審査プロセスがあり、各段階では、いくつかの審査項目と審査基準が設けられています。その中でも、銀行を含むほとんどの金融機関で「ひとつの会社における一定の勤続年数を考慮している」ことが国土交通省の調査でわかっており、転職に伴う勤続年数の減少は、住宅ローン契約の審査に影響を与えるおそれがあります。
この記事では、転職が住宅ローン契約の審査に与える影響や転職後に住宅ローン契約をする際の注意点とリスク、そして住宅ローンの申し込みは転職前と転職後のどちらが良いのかをご紹介します。
【目次】
転職は住宅ローンの審査に影響する?
転職後に住宅ローンを申し込む際の注意点
住宅ローンを申し込むなら転職の前と後のどちらが良い?
勤続年数以外の審査基準も確認しよう
転職は住宅ローンの審査に影響する?
結論から言うと、転職は住宅ローンの審査に影響します。
金融機関は、多くの評価指標を総合的に審査して住宅ローンの融資の可否を判断しています。中でも、ひとつの会社における勤続年数は評価指標として挙げられることが多く、国土交通省の「令和元年度 民間住宅ローンの実態に関する調査 結果報告書」によると、調査対象機関の95.6%がひとつの会社における勤続年数を考慮すると回答しています。
「転職したてでも収入が多いなら問題ないのでは?」と思うかもしれませんが、勤続年数が短いことは金融機関にとって融資をするリスクがあると判断されるのです。
例えば、転職した会社になじめずすぐに離職したり、予想していた収入より少なかったりして収入が安定せず、返済が滞る可能性があります。
金融機関としては、残債を回収できないという結果は絶対に避けたいことです。
考えられるリスクを減らすため、審査時には収入の安定性を重要視し、収入を判断するためのひとつの指標として勤続年数の長さを確認しているのです。
勤続年数以外にも、完済時の年齢や健康状態、年収などのさまざまな審査項目がありますが、すべては「返済能力があるか」という結論につながります。つまり、これらの項目の中で返済が滞るようなマイナスな要素がある場合は、審査に落ちる可能性があるということです。
転職だけの事由で審査に落ちるとは限りませんが、住宅購入を検討しているのであれば、やはり転職時期は考える必要があります。もし転職したてなのであれば、頭金を多く入れるなど、審査に有利になる方法を考えましょう。
参考:「令和元年度 住宅ローンの実態に関する調査 結果報告書」(国土交通省)
転職後に住宅ローンを申し込む際の注意点
転職後に住宅ローンを申し込む場合、いくつかの注意点があります。住宅ローンを申し込む金融機関により多少の違いはありますが、基本的には同じです。ここでは、基本的なチェックポイントを3つご紹介します。
勤続年数の条件を定めている金融機関がある
すべての金融機関が該当するわけではありませんが、住宅ローン契約の条件として、ひとつの会社における最低勤続年数を定めている金融機関もあります。そのため、転職後の勤続年数が短い状況で住宅ローンを申し込む際には、勤続年数を条件としていない金融機関を利用するのが望ましいでしょう。なお、全期間固定金利型の住宅ローンとして知られる【【フラット35】】は、勤続年数が短くても申し込みが可能となっています。
別途書類の提出を求められるケースがある
転職後に住宅ローンを申し込む場合、必要書類が通常とは異なるケースがあります。一例として、転職した人が提出を求められる可能性がある書類は以下の通りです。
- 年収(1年間の手取り収入)見込証明書や毎月の給与明細書など、転職先での年収(1年間の手取り収入)がわかる書類。または直近年の確定申告書
- 雇用契約書や採用通知書など、雇用に関する証拠書類
どのような書類が必要になるのか、前もって金融機関の担当者に相談するのが良いでしょう。
転職で年収が下がる場合は借入額に注意が必要
転職の前と後で年収(1年間の手取り収入)が下がる場合、転職後の年収(1年間の手取り収入)をベースに借入額を決めることが望ましいと言えます。というのも、転職前の年収(1年間の手取り収入)を基準に借入額を決めると、融資の審査に落ちたり、審査に通過したとしても返済が苦しくなったりするおそれがあるためです。この場合、頭金を増やして借入額を下げたり、返済期間を長くして月々の返済額を抑えたりすることも検討する必要があるでしょう。
住宅ローンを申し込むなら転職の前と後のどちらが良い?
転職予定がある中で住宅ローンを申し込む場合に、転職前と転職後のどちらが良いのかを悩まれる方は多いと思いますが、融資の申し込みを行うタイミングとしては、転職後がおすすめです。ここでは、その理由についてご説明します。
転職前に住宅ローンを申し込むと再審査となるおそれがある
住宅ローンの申し込み後に転職をする場合、申請していた情報と相違が生じます。仮にその事実を伝えずに黙っていたとしても、健康保険証などの提出書類によって判明するケースがあります。
また、申請していた情報と相違が生じた結果、申込内容に誤りがあると判断され、契約ができなくなるおそれもあります。
この場合、書類を提出し直したうえで再審査が必要となります。再審査の結果、融資が下りなかった場合は、物件の売主に違約金を支払うことになるケースもありますので、注意が必要です。
融資実行後の転職は届出事項の変更手続きが発生する
借り入れ後に転職を行い勤務先などの届出事項が変更になった場合、定められた方法で速やかに金融機関に報告することが義務付けられています。変更時に報告が必要な届出事項は契約書に記載されており、金融機関の指定フォーマットに変更内容を記入して提出します。
このように、転職前に住宅ローンを申し込むことで、融資までの期間が長くなったり、必要な手続きが増えたりします。住宅ローンはできるだけ転職後に申し込むのが望ましいでしょう。
勤続年数以外の審査基準も確認しよう
ここまでの説明で、最近転職した方や転職を検討中の方は、住宅ローンが組めるのか心配になったのではないでしょうか。
たしかに勤続年数は審査時に考慮される項目のひとつですが、前述したように、審査ではさまざまな観点から返済能力の有無を判断します。
では、具体的にどのような項目から判断するのでしょうか?
金融機関が融資を行う際に考慮していると回答した、上位の審査項目を見てみましょう。
年齢
住宅ローンの審査基準には「借入時年齢」と「完済時年齢」の2つの項目があり、ほとんどの金融機関でこれらの年齢に制限が設けられています。
年齢制限は金融機関によって異なりますが、借入時の年齢は20歳以上、完済時の年齢は80歳未満と定められていることが多いです。
健康状態
住宅ローンを組む際には、一部の商品を除き「団体信用生命保険(通称:団信)」への加入が義務付けられています。団信は、債務者に万が一のことが起こったとき、ローン残高が保障される住宅ローン専用の生命保険です。
そのため、生命保険の加入時と同じように、健康状態に問題がある場合は加入できないケースもあります。団信に加入できなければ住宅ローンを契約できないため、事前審査を通過しても本審査で落ちてしまうのです。
担保評価
「担保評価」は、住宅ローンを契約する際に担保とする不動産(購入する土地や住宅)の価値を指します。金融機関は住宅ローンの審査時に「不動産の担保評価がどのくらいあるのか」「借入額に見合っているのか」という点を確認します。
なぜなら、万が一ローンの返済が滞ったとき、金融機関は担保とする不動産を売却し、残債の回収を行うからです。審査には自分の状況だけではなく、不動産の価値も関係します。
借入可能額の範囲で申請したとしても、不動産の価値と借入額が見合っていなければ、審査に落ちる可能性があると覚えておきましょう。
このように、住宅ローンの審査は勤続年数だけではなく、さまざまな審査基準をもとに判断されます。もちろん勤続年数は長い方が審査は通りやすくなりますが、他の部分にマイナス要素があれば審査に通らない可能性もあります。
逆に、勤続年数が短かったとしても「年齢が若い」「不動産の価値が高い」「年収が高い」など、プラス要素が多ければ審査に通る可能性も十分にあるでしょう。
転職も住宅購入も、どちらも大きなライフイベントです。
タイミングを誤らないよう家族で話し合い、納得できる優先順位を決めましょう。