最終更新日: 2024年11月29日

住宅ローンを組む際、多くの人は万一に備えて団体信用生命保険に加入します。その場合、「すでに加入している生命保険の見直しや解約は必要なの?」と疑問に思われる人もいらっしゃるのではないでしょうか。結論から言えば、見直すことが好ましいケースがあります。住宅ローンを組むと生命保険で備えるべき金額が変わってしまうからです。
今回は、住宅ローンを組んだときに生命保険の見直しが必要となる理由や、その場合の見直し方についてご紹介します。

【目次】
住宅ローン契約時に生命保険を見直す必要性
住宅ローンの団体信用生命保険と一般的な生命保険の違い
住宅ローン契約時の生命保険の見直しポイント
住宅ローンを組んだら加入中の生命保険を見直そう

住宅ローン契約時に生命保険を見直す必要性

団体信用生命保険の保障内容や、民間生命保険の見直しを検討すべき理由をお伝えします。

団体信用生命保険の保障内容

団体信用生命保険(以下、団信)とは、住宅ローンを返済する人が亡くなったときや所定の高度障害状態になった場合に残債がなくなる保険です。金融機関の多くは、団信への加入を住宅ローンの融資条件にしています。

団信に加入することで、例えば住宅ローンを返済している夫に交通事故などの万一のことが起きた場合、その後の返済が不要となります。遺された家族は、ローン返済の心配をすることなく、マイホームで暮らしていけます。

死亡や高度障害だけでなく、所定の病気にかかったり、その病気が原因で働けなくなったりした場合でも団信に特約を付帯していれば、ローン残高を全額保障、もしくは働けない期間の返済を保障してもらうこともできます。

加入中の生命保険と保障が重複する可能性がある

民間の生命保険に加入していて十分な保障を準備できている状況で、さらに団信に加入すると、死亡・高度障害の保障が過剰になるおそれがあります。団信に加入すると万一の場合に住宅ローンが完済されるため、民間の生命保険(死亡保険)で備えている保障の一部が不要となるのです。

このことからも、団信への加入をきっかけに、すでに加入している民間の生命保険の保障内容を見直すことで、保険料を削減できる可能性があります。
ただし、見直しといっても生命保険をすべて解約するのはおすすめしません。団信は住宅ローンの返済のみが保障の対象となるため、遺された家族の生活費や教育費などの支出は、別途民間の生命保険で準備しなければならないからです。

また、マンションで暮らしている人であれば、管理費や修繕積立金などは引き続き支払うことになります。戸建て住宅であっても、将来的に自宅を修繕・改修するための費用が必要となりますので、そのための費用を積み立てておくなどの対策が必要です。そういったときのためにも、団信に加入したとしても生命保険を単純に解約するのではなく、保障内容を見直して、団信との保障内容のバランスや生命保険の保険金額を適切なものに調整することが大切なのです。

住宅ローンの団体信用生命保険と一般的な生命保険の違い

団信と民間の生命保険にはいくつか違いがあります。ここでは、保険金の受取人や保険料の支払い方法、保険料の算定方法、保障期間の4つの観点で違いをご紹介します。

保険金の受取人の違い

団信

保険金を受け取るのは、銀行や信用金庫などの金融機関です。生命保険会社から金融機関に保険金が直接支払われることで、住宅ローンが完済されます。

民間の生命保険

民間の生命保険では契約時に被保険者や被保険者の家族を保険金の受取人に指定します。団信の保険金はすべて「住宅ローンの返済」に充てられますが、民間の生命保険の保険金の使い道は「受取人の自由」となっています。

また民間の生命保険には、支払った保険料が生命保険料控除の対象になるというメリットがあります。生命保険料控除とは、年間で支払った保険料に応じた一定の金額を、所得税や住民税の課税対象となる所得金額から控除することにより、納める税金の負担を軽減する所得控除の仕組みの1つです。しかし、団信の保険料はこのような所得控除の対象とはなりません。

保険料の支払い方法の違い

団信

保険会社と団信の契約を結ぶのは、住宅ローンの契約者ではなく、住宅ローンを提供する金融機関です。団信の保険料は金融機関を通じて保証会社に支払われるため、住宅ローンの返済額に組み込まれているケースが多いです。そのため、通常の団信であれば別途保険料を支払う必要はありません。

ただし、がんと診断された際に「ローン残債を全額もしくは半額保障する」などという特約を団信に付帯するときは、その分の保険料を住宅ローンの借入金利に0.1~0.3%程度上乗せする形で保険料を支払うことが一般的です。中には保険料に該当する部分の上乗せ金利なしで、死亡・高度障害以外の疾病保障が付帯されている団信もあります。

民間の生命保険

民間の生命保険の場合は、保険契約者が直接契約先の生命保険会社に、口座振替やクレジットカード払いなどの方法で保険料を支払います。保険料の払い込み方法は、月額払い(平準払い)以外にも、半年払いや年払い、全期前納などから選択が可能です。

保険料の算定方法の違い

団信

団信の保険料は、取り扱う金融機関や保障内容などによって異なります。しかし取り扱う金融機関と保障内容が同じであれば、契約者の年齢や性別などによって保険料が変わることはなく、また特約を付けたことによって発生する上乗せ金利も契約者によって異なることはありません。

民間の生命保険

加入する生命保険会社や保障内容だけでなく、契約者の年齢や性別などによって保険料が変わります。また保険の対象となる人(被保険者)の健康状態によっては、割増保険料が適用されることがあります。

保障期間の違い

団信

団信の保障期間は、住宅ローンが完済されるまでです。住宅ローンの完済後は、たとえ保険金の支払事由に該当していても保険金は支払われません。
また繰上返済によって住宅ローンの返済期間が短縮されると、結果的に団信の保障期間も短縮する仕組みになっています。

民間の生命保険

契約時に定めた期間が保障の対象となります。たとえば終身保険の保障期間は、解約しない限り一生涯継続します。また、定期保険や収入保障保険などの保障期間は「65歳まで」もしくは「契約時から20年」など、一定期間となっています。

住宅ローン契約時の生命保険の見直しポイント

では、団信に加入する際、既存の生命保険はどのように見直すべきなのでしょうか。

必要保障額に過不足はないか

団信に加入する際は、まず今後のライフイベントについて考慮することが大切です。団信で保障されるのは住宅ローンの返済のみであることから、それ以外に何にいくらかかるのかといった必要保障額をある程度見積もっておくようにしましょう。例えば子どもがいる場合、教育費の負担が多くなる時期はいつなのか、そして費用がいくらかかるのかを知っておくことは大切です。さらには、親の介護費用なども考慮しておく必要があります。

必要保障額とは、万が一のことが起こった場合に備えて、遺された家族が生活していくために生命保険で準備しておきたい金額のことです。ただし、万が一のことが起きた場合に入ってくるお金は保険金だけではありません。遺族年金や企業からの死亡退職金などもあるでしょう。生命保険で準備すべき必要保障額は、万が一の後に必要な支出である生活費、住居費、教育費などの合計額から、その時点での貯蓄と将来にわたって受けとることができる収入(遺族年金や死亡退職金など)を差し引いて算出します。

【想定される支出】
・遺族の生活費
※子どもが全員独立するまでの期間と配偶者が平均余命を迎えるまでの期間に支払いが想定される生活費
・子どもの教育費、保育費、結婚資金
・住居費(管理費、修繕積立金 駐車場代)
※配偶者が平均余命を迎えるまでに支払いが想定される住居費
※賃貸住宅に住んでいる場合は、家賃も考慮して算出する
・葬儀費用・お墓代 など

【想定される収入】
・遺族年金(遺族基礎年金、遺族厚生年金)
・企業保障(死亡退職金、弔慰金)
・預貯金、金融資産
・配偶者の就労収入、退職金 など

例えば、必要保障額全てを生命保険で準備している場合、団信に加入することによってその一部が補填されるのであれば、生命保険の保障額を減らすことを考えましょう。

また必要保障額を再計算するときは、住居費だけでなくその他の支出や収入も見直すと良いでしょう。

生命保険の加入時に独身の方は、自身が亡くなったあとの家族の生活費や居住費などを準備する必要があまりないため死亡保障についてはそこまで手厚くしていないケースがあります。
もちろん、生命保険においても結婚や子どもが生まれた際の見直しは必要ですが、団信に加入する場合、その時点での家族構成や今後子どもが増えるなどライフプランの変更に対応した必要保障額の算出が必要となります。

自分以外の家族を含めた生活費や、子どもの教育費、そして自分が働けなくなった際の収入をどこまで保障するかを考え、最終的な必要保障額を算出しましょう。

団体信用生命保険で賄えないリスクに対応できるか

団信は住宅ローンの返済途中で死亡・高度障害などにより、返済が困難となる状況に対応している保険です。がんや三大疾病(がん・急性心筋梗塞、脳卒中)などに対応した団信もありますが、ローンの返済を保障する保険であることに変わりはありません。

そのため、病気で入院・手術をした場合に自己負担した医療費や先進医療を受けたときの技術料などは、団信の保障ではカバーできないのです。

医療費の自己負担や収入の減少など、団信でカバーしきれないリスクは、民間の医療保険やがん保険、また働けなくなった際の収入を保障する就業不能保険などの保険商品で備えておくことをおすすめします。

  • 医療保険:病気やけがで入院・手術をした場合に給付金を受け取れる保険
  • がん保険:所定のがんと診断またはがん治療を受けた場合などに給付金を受け取れる保険
  • 就業不能保険:所定の就業不能状態となった場合に保険金を受け取れる保険

ただし民間の生命保険に加入するときは、公的医療保険(健康保険)にある高額療養費制度や、公的年金保険における遺族年金や障害年金などの給付内容と受給額も十分確認するようにしましょう。公的な保険制度だけでは賄えない部分を、民間の生命保険を活用して補助的に利用することが大切なのです。

住宅ローンを組んだら加入中の生命保険を見直そう

生活環境の変化によって、必要保障額は変わります。住宅を購入した際には、一般的にその住宅ローンの返済額分が必要保障額に加算されることになります。また、今後子どもが増える、もしくは子どもの希望する進学形態によっては当初予定していたよりも多くの教育費が必要となる可能性もあるでしょう。

一般的に住宅ローンの返済期間は20~30年など長期間にわたります。それゆえ、夢のマイホームを購入し、住宅ローン返済中に世帯主に不測の事態が起ったとしても、遺された家族の金銭的な負担が増えてしまう事態はできるだけ避けなければなりません。

住宅購入時には「必要保障額がどのくらい増えるのか」を考え、住宅ローン返済中のライフイベントを想定し「保障できる範囲とその金額を把握する」ことが大切です。団信で保障できる部分を加味しながら、民間の生命保険の保障で過剰となった部分は減らし、不足している部分については増やすなど「保障範囲」と「保険金額」のバランスを見直すようにしましょう。

投稿者

  • 品木 彰

    2級ファイナンシャル・プランニング技能士。
    大手生命保険会社にて7年半勤務。個人営業、法人営業の両方を経験したのちに、人材会社にて転職エージェントとして従事する。
    その後、お金に関する正しい知識をたくさんの人々に知って欲しいという思いから、2019年1月にライターとして独立。
    不動産や保険、税金など幅広いジャンルの記事を執筆・監修に携わる。

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