最終更新日: 2024年11月29日
住宅ローン返済の延滞を、公共料金などと同じレベルで考えているととても危険です。「1カ月くらいの延滞はなんとかなるだろう」と軽い気持ちでいると、後で取り返しのつかないことになってしまいます。一度たりとも延滞はしないという意識が大切です。それでも長い返済期間ですから不測の事態が起こってしまうかもしれません。
そこでこの記事では、万が一住宅ローンを延滞してしまった場合の対処法や、延滞しないためにできることなどをまとめました。
【目次】
住宅ローン延滞後の流れ
住宅ローンを延滞する前にすべきこと
住宅ローンの延滞を防ぐポイント
住宅ローンを借り入れる際には、現実的な計画を
住宅ローン延滞後の流れ
ここでは、延滞してしまった場合の流れをご説明していきます。
延滞直後~1カ月
引き落とし口座の残高不足などで返済日に引き落としができなかった場合、金融機関から引き落とし不可の通知書が届き、再引き落としの日時を通知されます。多くの場合、翌月の引き落としの際に2カ月分をまとめて引き落とされます。
「うっかり口座にお金を入れ忘れていた」としても延滞には変わりなく、返済日の翌日から、遅延損害金が発生しても文句は言えません。金融機関に対する遅延損害金は年利14%のところもありますが、一般的には14.6%。これが次回の返済時に加算されます。
<遅延損害金の計算方法>
遅延している約定返済額の元金 × 遅延損害金年率 ÷365日 × 返済日の翌日からの経過日数
たとえば、借入残高2,000万円、遅延している約定返済額の元金10万円、遅延損害金年率14.6%、遅延した日数20日の場合、遅延損害金は800円となります(1年を365日とし、日割り計算)。
100,000円×0.146×20日÷365=800円
低金利の銀行預貯金とくらべると驚くような高金利ですが、法律で認められている金利です。
また、ローン金利の優遇を受けている場合、一度の遅延で優遇の適用が外れて金利が上昇する可能性があります。優遇金利が適用される場合と、されない場合で返済額にどのくらい影響がでるのか計算してみましょう。
たとえば、ある銀行で店頭表示金利は4.05%のところ、2.9%の金利優遇が適用され表面金利1.15%で住宅ローンを借り入れたとします。借入額が2,000万円、返済期間30年、元利均等返済とすると、金利の違いでこれだけ返済額に差が出ます。
金利 | 返済月額 | 総返済額 |
表面金利:1.15% | 9.9万円 | 3,549万円 |
店頭表示金利:4.05% | 14.5万円 | 5,188万円 |
差 額 | 4.6万円 | 1,639万円 |
金利優遇が適用されなくなってしまうと、返済額が大きく増加してしまうことがご理解いただけると思います。
引き落とし額に対してほんの少しでも残高が足りないと、全額が引き落しされず、その月は延滞になってしまいます。うっかりミスによる残高不足を防ぐため、引き落とし口座には常に1カ月分を余分に預け入れておくといいでしょう。
延滞後1~3カ月
延滞後1カ月が経過しても入金できない場合には、金融機関から支払い請求書、つまり督促状が届きます。金融機関に再引き落としはかけてもらえないので、ご自身で遅延した元金と利息のほか、遅延損害金をまとめて振り込みすることになります。遅延損害金は日割りで計算されるので、1日でも早く支払いたいところです。
ここまでは滞納分を支払うことで住宅ローンの契約を続けることができますが、これ以上延滞してしまうと最悪の場合には、マイホームを手放さなくてはいけなくなってしまいます。
場合によっては、金融機関から督促の電話がかかってくることもあります。今後の対策は金融機関との話し合いで決めることになるので、誠実に対応しましょう。どうしても支払いが難しいのであれば、自ら借入先の金融機関へ電話するなど、自主的な行動を心がけてください。返済期間の延長や一定期間の返済額軽減などの対策について金融機関と相談しましょう。
延滞後2~3カ月が経過すると、金融機関から催告状が送られてきます。催告状は競売申立てなどの法的手続きを行うための前提となる、いわば最後通告です。指定された期日までに支払わない場合には「期限の利益が喪失」する旨が記載されるなど、今までよりも強い表現となります。
延滞後3~6カ月
3カ月以上延滞すると、いよいよ金融機関から期限の利益喪失の通知書が届きます。そもそも住宅ローンの債務者(借りている人)は債権者(金融機関)に対して、あらかじめ契約で定めた最終の返済期日までは分割して返済することができる権利があります。これを期限の利益といいます。
期限の利益が喪失すると、今までのように住宅ローンの分割払いができなくなるため、借入金の残金を一括で支払わなければなりません。住宅ローンを借り入れする際に結んだ契約書にはほとんど、この期限の利益の喪失条項が定められているからです。
保証会社を利用している場合、金融機関は保証会社へ履行請求するため、保証会社が一旦肩代わりして支払ってくれます(代位弁済)。しかし、これで支払いから解放されるわけではありません。後日、保証会社から一括返済の請求が届きます。つまり今後は保証会社に対して返済することになるのです。いずれにしろ、この時点で一括返済と言われても返済できない方が多いのではないかと思います。
こうなると、信用情報機関に金融事故の記載が登録されます。いわゆるブラックリストです。この情報は完済から5年間保存されます。住宅ローンはもちろん、他のローンについても新規の借り入れが難しくなってしまいます。また、クレジットカードの新規作成や携帯電話代金の分割払いなどもできません。
その後、金融機関は競売の申立て手続きへと進んでいきますが、「任意売却」を行うのであれば、これが最後のタイミングです。金融機関が任意売却に協力的であれば、競売の申立てをストップしてもらえる可能性があります。
延滞後6カ月以降
6カ月以上延滞して債務者が一括返済できない場合、金融機関は裁判所に競売の申し立て手続きをします。すると、裁判所から競売手続き開始と物件の差し押さえの通知が届き、裁判所の執行官が事前通知をしたうえで現況調査に訪れます。
つまり、延滞から1年程度で競売が始まります。価格は入札期間中にもっとも高い価格で入札した人が落札しますが、内覧せずに入札していることも多く、市場価格よりも低くなってしまうこともあります。そして、落札して取引が完了すると、指定日までに退去しなければなりません。もし、期日までに退去しなかったら不法占拠とみなされ、強制執行が行われるおそれがあります。
住宅ローンを延滞する前にすべきこと
どうしても返済が困難だという状況になってしまったら、引き落とし日が来る前に金融機関へ連絡して延滞を回避できるよう相談してください。次のような手段が考えられます。
返済方法を変更する
まず借入先の金融機関に相談し、返済方法を変更してもらえるかどうか相談してみましょう。返済期間の延長や一時的に利息のみの支払いへ切り替え、一定期間の返済額減額などの選択肢が考えられます。ただし、いずれも総返済額が増えたり返済期間が長くなるので注意が必要です。資金に余裕が出たタイミングで元の返済方法に戻して、少しでも総返済額を抑えることも想定しておきましょう。
返済猶予を適用する際には、金融機関が再審査を行います。返済能力によっては支払方法の変更が認められない場合もあります。
借り換えを実施する
金利の低い金融機関で住宅ローンを借り換え、月々の返済額を抑える方法です。ただし、契約時に融資手数料や登録免許税、司法書士報酬など新たに諸費用がかかってしまいます。数十万円程度まとまった資金が必要になることもあり、一時的に生活が苦しくなる可能性も考えられます。借り換えの際には諸費用も含めて総合的に検討しましょう。
任意売却を行う
任意売却とは、債務者(借りている人)と債権者(金融機関や保証会社)の合意のもと、一般的な不動産取引として売却することです。売却価格がローン残高を下回り残債が残った場合、手持ちの資金で返済を続けなければなりませんが、その後の分割払いも交渉しやすくなります。また、残債が残っても債権者の抵当権を抹消してもらうため、債権者の承諾が絶対条件となります。
<任意売却の主なメリット>
- 抵当権を設定した不動産を強制的に売却する競売と比べ、有利な価格で売却できる可能性がある
- 通常の不動産取引として売却するため、競売のように情報が公告されず、近所の人に事情を知られなくて済む
- 契約日や引き渡し日を買主と相談して、子供の学校のタイミングなどに合わせて決めることができる
- 引っ越し費用を売却代金の中から控除してもらうよう、交渉する余地がある
競売手続きに移行した後では任意売却は認められないことがありますので、金融機関と事前にしっかりと話し合いをしておくことが大切です。
大切なマイホームですから、できれば手放したくないと思うのは当然です。しかし、返済の見通しが立たない場合には任意売却という選択肢も含め、早期解決に向けて動き出してください。時間の経過とともに遅延損害金が膨らむなど、状況が悪化してしまうこともあります。
住宅ローンの延滞を防ぐポイント
返済は毎月の積み重ねです。日ごろからしっかりと家計管理をして計画的に返済をしましょう。
家計の収支を把握する
- 月収の減少やボーナス減額・カットになりそうな状態ではないか
- 勤めている会社の財務状況に問題はないか
- 支出をコントロールできているか
- 毎月安定して貯蓄ができる収支バランスを維持しているか
これらを把握しておくことで、延滞の兆候を察知しやすくなります。延滞を防ぐために、早めの段階で金融機関に相談しましょう。
将来的な支出増加に耐えられる返済計画になっているか見直す
住宅ローンは長期にわたり高額な返済をすることになります。出産や子供の進学、結婚、入院や手術、親の介護など、突発的に支出が増えることもあるでしょう。
定期的に借り入れたときの収支計画を見返し、順調に貯蓄ができているか確認してみてください。想定よりも貯蓄が増えていない場合は、都度、返済計画の見直しが必要です。
住宅ローンを借り入れる際には、現実的な計画を
借りられるだけ目一杯借りて、返済の不安を抱えたまま住み続けると精神的に落ち着きません。自己資金をどのくらい貯めておくのか、収入に対して年間の返済額は妥当かどうかといったことを含め、事前に現実的な返済計画を立てておきましょう。
定年後にもまだ、住宅ローンの返済が続いてしまうケースも見受けられます。住宅ローンの完済時期も考慮してリタイアするタイミングを決めることも大切です。