住宅ローンの返済期間中に転勤が決まったら、マイホームをどうするべきか悩みますよね。方法としては、単身赴任をしたり、家族で引っ越しをしたりといった選択肢が考えられるでしょう。しかし、住宅ローンは契約者本人が住む家を購入するためのローンなので、住宅ローンや住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)の扱いはどうなるのでしょう。この記事では、転勤によって起こる住宅ローンの問題点や対処法について解説します。
【目次】
転勤が決まったら住宅の扱いはどうすれば良い?
住宅ローン返済中に転勤する際に必要な手続き
住宅ローン返済中に転勤する際の注意点
ポイントは早く方針を決めて、金融機関に相談すること
転勤が決まったら住宅の扱いはどうすれば良い?
住宅ローン返済中に転勤が決まった場合、単身赴任になるか、家族も一緒に引っ越すかで自宅の取り扱いが変わってきます。住宅をどのように扱えば良いか、いくつかのケースで見ていきましょう。
単身赴任する場合
単身赴任をする場合、家族は引き続き自宅に住み続けることが多いでしょう。契約者が単身赴任する場合、転勤などのやむを得ない事情があれば、家族が居住することを条件に、住宅ローンを継続して利用できるケースが多いです。また、契約者の単身赴任が終わった後に再び家族と一緒に自宅に住む場合は、引き続き住宅ローン控除も利用できます。
海外転勤で単身赴任をする場合も、平成28年4月1日以降に自宅を購入した場合は、住宅ローン控除を受けられます。ただし、平成28年3月31日以前に自宅を購入した方は海外赴任している間は住宅ローン控除による減税を受けられません。また、海外赴任後に住宅ローンの再適用を受けるには、赴任をする前に「転任の命令等により居住しないこととなる旨の届出書」を管轄の税務署に提出する必要があります。
家族も一緒に引っ越す場合
転勤に伴い、家族も一緒に転勤先に引っ越しをする場合、持ち家に住んでいる人が誰もいなくなります。この場合の持ち家の取扱いとしては「売却する」「空き家のまま保有する」「賃貸に出す」という3つの選択肢が考えられます。
売却する
家族全員で引っ越す場合は、自宅を売却するのが一般的です。この場合、赴任先で新しく家を購入する際の、頭金を確保できるというメリットがあります。
ただし、住宅ローンがある場合は完済をしなければ持ち家を売却できません。自宅の査定額が想定よりも低く、売却をしても住宅ローンが残りそうな場合、手持ちの資金から残債を返済する必要があります。
空き家のまま保有する
将来的に今の居住地に戻ってくる可能性がある場合は、空き家のまま持ち続けるという選択肢もあります。ただし、空き家で持ち続けるにしても、住宅ローンが残っている場合は注意が必要です。
住宅ローンは本人が住む家屋の購入資金を融資するための制度なので、金融機関に連絡なしで空き家にすると契約違反となり、場合によっては一括返済を求められることもあります。住宅ローン返済期間中に空き家にする場合には、事前に必ず金融機関に相談しましょう。
また、空き家にしておくと換気不足による湿気や風雨にさらされたことによって、建物に劣化が生じやすくなったり、気が付かないうちに犯罪者の隠れ家になったりするといったリスクもあります。転勤で持ち家を空き家にする場合は、管理会社などに管理を依頼すると良いでしょう。
住宅ローンを引き続き利用するのであれば、返済も並行して行うことや、住宅ローン控除を受けられない点に注意が必要です。
賃貸に出す
将来的に自宅に戻ってくる場合は、売却せずに第三者に賃貸物件として貸し出す方法もひとつの選択肢となります。入居者から家賃収入を得ることができ、ローン返済の負担軽減の効果も期待できます。
賃貸に出す場合、建物を所有する目的が「自分が住む」ことから「他人に賃貸する」ことに変わるため、空き家として所有を続けるケースと同様に金融機関への相談が必要です。
他人に持ち家を貸して家賃収入を得ることは不動産投資にあたります。投資目的の物件は通常の住宅ローンの要件に当てはまらず、住宅ローンの利用ができません。そのため、賃貸に出す場合は住宅ローンから不動産投資ローンに借り換えることが基本となります。
金融機関の許可なく、住宅ローンを返済しながら持ち家を賃貸に出していた場合には、契約違反となり一括返済を求められます。しかし、転勤などのやむを得ない事情であれば、住宅ローンを借りたまま賃貸に出せるケースもあるので、まずは金融機関に相談してみてください。
なお、賃貸で他人に貸して家賃収入を得る場合には確定申告が必要です。賃貸した翌年の2月16日~3月15日の間に、忘れずに確定申告を行いましょう。
住宅ローン返済中に持ち家を賃貸に出す場合については、こちらの記事も参考にしてみてください。
住宅ローン返済中に転勤する際に必要な手続き
住宅ローン返済中に転勤をする場合、多くの手続きが必要です。
単身赴任するのか家族で引っ越すのか、方針決定に時間がかかると、赴任日まで猶予がなくなってしまいます。配偶者も働いているケースや、お子さまがいる場合は学校のことなども検討が必要なため、時間に余裕を持ち、家族で話し合って方針を決めましょう。
契約者が単身赴任をする場合は、住宅ローンも住宅ローン控除も引き続き利用できるので、市区町村役場で契約者が転居の届出をするだけで手続きは終了します。
一方、家族で引っ越しをする場合は、持ち家を「売却する」「空き家にする」「賃貸にする」のいずれの方針を採用するかで取るべき手続きは異なります。
いずれの場合も家族で引っ越しをする場合は、現在の住宅ローンをどうするか金融機関に相談が必要です。家族で引っ越しをする場合はなるべく早めに決断して、金融機関に相談して指示を仰ぎましょう。
住宅ローン返済中に転勤する際の注意点
ここでは、住宅ローン返済中に転勤する場合に想定される注意点について解説します。
単身赴任の場合
単身赴任の場合、結果的に持ち家に住んでいる家族と、赴任先にいる契約者双方の生活費がかかり、会社からの手当があっても、お金の負担がこれまで以上に増えることがあります。生活費が負担になり住宅ローンが返済不能になると、自宅が差し押さえられて家族が暮らす家がなくなってしまうおそれがあります。
自宅を失う事態を防ぐには、単身赴任による生活費の変化や会社からの手当等を確認し、事前に収支計画を考えることが大切です。収支計画を作った結果、住宅ローンの返済が厳しくなりそうな場合は、家計の見直しをする必要があるでしょう。
売却する場合
持ち家を売却する場合、住宅ローン借入残高よりも売却価格が低く、残債が残る場合は手元資金で支払うことが必要です。住宅ローンの残債が支払えない場合、金融機関から売却の承諾が得られないことも考えられるでしょう。
また、売却したくてもちょうど良いタイミングで買い手が現れるとは限りません。転勤に伴って自宅を売却する場合は、赴任日から逆算していつ頃までに売却が必要なのかを把握する必要があります。
また、想定より短期間で売却できた場合は仮住まいが必要になり、逆に遅すぎれば物件を買いたい人の内覧のために、赴任先から足を運ぶ必要があるなどのデメリットもあります。売却のタイミングは慎重に判断しましょう。
空き家のまま保有する場合
空き家のままにしておくと、万が一建物に損傷が発生しても誰もメンテナンスをする人がいないため、状態の悪化が進行してしまうことがあります。また、空き家は劣化しやすく、転勤後は自宅の様子をこまめに確認することが難しいため、信頼のできる個人や不動産会社に管理を依頼する必要があるでしょう。
不動産管理会社に管理を依頼すれば安心ですが、委託費用がかかる点は考慮しなければなりません。また、引き続き固定資産税も発生します。
賃貸に出す場合
持ち家を賃貸に出すと基本は不動産投資用のローンに借り換えることになりますが、住宅ローンは住宅購入促進のために金利が優遇されているケースが多く、不動産投資ローンのほうが金利は高くなる傾向があります。また契約にあたり印紙税や融資手数料などの諸費用がかかることも考慮しておきましょう。
万が一建物に損害が発生した場合、火災保険の対象にならないケースもあるので、個人的に修繕積立金を用意しておくことをおすすめします。
入居者が決まれば家賃収入をローンの返済に充てることができますが、あまり家賃を高くすると入居者が集まりにくくなるため、相場を見極めて家賃額を設定する必要があります。
また、入居者との契約で「普通借家契約」を結ぶと、借主(入居者)が契約の更新を希望する場合、正当な理由なく拒めなくなることが多いです。つまり、赴任期間が終わり赴任先から戻ってきた際に、入居者が引き続き住みたいという意思表示をしている場合は、所有者が自宅に住めないということになります。
将来的に戻ってくる可能性がある場合は、原則契約の更新がない「定期借家契約」を結ぶと良いでしょう。
ポイントは早く方針を決めて、金融機関に相談すること
住宅ローン返済中に転勤が決まったら、単身赴任なのか、家族で引っ越すのか、また家族で引っ越しをする場合には、残った家をどうするのかを考える必要があります。
単身赴任する場合、将来的に持ち家に戻る予定があれば、住宅ローンと住宅ローン控除ともに引き続き利用できますが、売却や空き家として所有、賃貸に出す場合には注意が必要です。
家族で引っ越しをする場合は家族での話し合いが必要になります。余裕をもって話し合いを早めにスタートし、方針を決めたら速やかに金融機関に相談しましょう。
金子 賢司(かねこ けんじ)
(保有資格)
CFP(R)認定者・TLC(生命保険協会認定FP)・損害保険トータルプランナー
ファイナンシャルプランニング技能士1級と同等資格のCFP(R)や、生命保険資格の最高峰であるTLCを持ち、日本FP協会道央支部に幹事として所属。2017年以降は、確定拠出年金・生命保険・ライフプランに関するセミナーを年間50~100件開催。北海道新聞にもコラム掲載の経験があり、執筆活動にも力を入れている。
公式サイト:https://fp-kane.com/