最終更新日: 2024年11月29日
住宅ローンの繰上返済とは、返済期間中に前倒しで住宅ローンの元金を支払うことです。前倒しで返済することにより、総返済額を少なくする効果があります。住宅ローンの繰上返済には「返済期間短縮型」と「返済額軽減型」の2種類があります。それぞれの特徴を知った上で、自身にふさわしい繰上返済方法を選択すれば、返済の負担を軽減でき、生活にゆとりが持てるようになります。今回は、繰上返済のメリットや効果、実行時の注意点をご紹介します。
【目次】
住宅ローンを繰上返済するメリット
繰上返済による利息軽減効果のシミュレーション
住宅ローンの繰上返済を行う際の注意点
「繰上返済ありき」の住宅ローン契約は危険
住宅ローンを繰上返済するメリット
住宅ローンの繰上返済は、借りている残債を一括ですべて返済する(全部繰上返済)だけなく、残債の一部だけを返済する(一部繰上返済)ことも可能です。一部繰上返済には、「返済期間短縮型」と「返済額軽減型」の2種類があります。それぞれのメリットをご説明します。
返済期間短縮型で繰上返済するメリット
返済期間短縮型とは、返済期間を短くする繰上返済の方法です。月々の返済額は変わりません。
返済期間が短くなるため、利息の総支払額が少なくなる効果があります。返済額軽減型よりも利息の軽減効果が高いため、通常は返済期間短縮型を選ぶのがおすすめです。
返済額軽減型で繰上返済するメリット
返済額軽減型とは、毎月の返済額を減少させる繰上返済の方法です。当初の返済期間は変わりません。月々の支払いが少なくなるため、家計への負担を下げ生活を安定させることができます。今後、お子さんが大きくなって教育費がかさむといった理由から、月々のローン返済負担を軽くして貯蓄を増やしたいというご家庭などに向いています。
繰上返済による利息軽減効果のシミュレーション
同じ時期に同じ金額で繰上返済をしても、「返済期間短縮型」と「返済額軽減型」とでは、利息の軽減効果が大きく異なります。
<計算条件>
当初の住宅ローン借入額:3,500万円
当初の返済期間:35年
金利:1.310% 全期間固定金利 ※【フラット35】の2020年8月最多金利
返済方式:元利均等返済
ボーナス払い:なし
繰上返済のタイミング:借り入れから5年目
繰上返済額:100万円
返済期間短縮型
繰上返済を行わない場合 | 繰上返済を行った場合 | |
月々の返済額 | 104,000円 | 104,000円 |
総返済額 | 43,653,200円 | 43,187,500円 |
利息額 | 8,653,200円 | 8,187,500円 |
差分 | - | -465,700円 |
※計算結果は、100円未満を切り上げて表示しています。
返済額軽減型
繰上返済を行わない場合 | 繰上返済を行った場合 | |
月々の返済額 | 104,000円 | 100,600円 |
総返済額 | 43,653,200円 | 43,443,600円 |
利息額 | 8,653,200円 | 8,443,600円 |
差分 | - | -209,600円 |
※計算結果は、100円未満を切り上げて表示しています。
上記の試算では、返済期間短縮型のほうが返済額軽減型よりも256,100円利息が少なくなっています。返済期間短縮型のほうが利息の軽減効果が高く、総支払額の抑制につながるということがわかるでしょう。
※実際には団体信用生命保険の保険料なども併せて減少するため、実際の軽減効果は上記試算と異なるケースもあります。
住宅ローンの繰上返済を行う際の注意点
繰上返済は当初の予定よりも総返済額を少なくすることができるため、資金に余裕があれば検討してみるのも良いでしょう。ただし、注意点も踏まえた上で実行するかを決める必要があります。
生活に負担をかけない範囲に留める
繰上返済を行うと、返済した分だけ手元資金が減少します。総返済額が少なくなるからといって、貯金の多くを繰上返済に充ててしまい、現在の生活が苦しくなるのでは元も子もありません。また、貯金が少なくなればライフスタイルの変化や突然の事故・ケガといった理由で出費が発生した場合に対応できなくなるおそれもあります。
繰上返済は生活に影響しない範囲に抑えることが大前提です。また、近い将来迎えるお子さんの進学や家電の買い替えなど、想定される出費を考慮した上で支払額を決める必要があります。
一度にできる繰上返済の金額は、金融機関により最低金額を定めていることがあります。例えば、住宅金融支援機構の【フラット35】の場合、窓口での繰上返済の最低金額は100万円です。ただしこれには例外があり、インターネットで一部繰上返済する「住・My Note」を利用する場合には、10万円以上から繰上返済ができます。
繰上返済できる最低金額が小さい金融機関で住宅ローンを契約し、資金に余裕が出たタイミングで少しずつ繰上返済を実施すれば、家計に大きな負担をかけることなく元金や利息を減らすことができるでしょう。
繰上返済には手数料がかかることがある
金融機関によっては、繰上返済を行う際に手数料が発生することもあります。繰上返済を想定している場合は、手数料がかからない、もしくは少ない金融機関を選ぶと良いでしょう。
インターネットでの繰上返済手続きができるかどうかも併せて、事前に確認しておきたい事項です。
繰上返済を行うと住宅ローン控除の控除額が減少する
繰上返済は、実施のタイミングにも注意する必要があります。住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、一般に年末時点の残高の1%が税額控除の対象となるため、住宅ローン控除期間中に繰上返済を行うと、借入残高が減少し控除額が少なくなるおそれがあります。場合によっては、10年以内に繰上返済を行うよりも、11年目以降まで待ったほうが負担が少なくなるケースもあります。
また、繰上返済によって返済期間の合計が10年未満になると、住宅ローン控除が適用されなくなるという点にも注意が必要です。住宅ローン控除の利用条件として、返済期間が10年以上の契約であることが定められているからです。また、住宅ローン控除額は「年末時点での残高」に対して計算されるため、全部繰上返済をして残高がなくなってしまうと、それ以降、控除が受けられなくなってしまいます。繰上返済による期間短縮や全部繰上返済する場合は、当初からの返済期間が10年未満にならないように支払額を調整するのが望ましいでしょう。
※2020年12月末までに、消費税率10%で住宅を購入した場合には、住宅ローン控除は13年間適用されます。ただし、11年目以降の控除額は、年末残高1%とは限りません。
「繰上返済ありき」の住宅ローン契約は危険
今までファイナンシャル・プランナーとして、多くの方の住宅ローン相談を担当しましたが、住宅ローン契約の際には、「少しでも多く繰上返済をして、住宅ローンを返そう!」と意気込んでいる方が少なからずいらっしゃいます。定年をはるかに超えた年齢を完済時期に設定し、あとは繰上返済で期間を短縮しようというかたも多く見受けられます。
ただ、いざ返済がスタートすると、月々の生活費やお子さんの教育費、車の買い換え、家電の故障など、さまざまな出費に追われて、思ったように繰上返済することは難しいのが現状です。そもそも、月々のローン返済でさえ、長期間にわたってきちんと返済を続けることは大変なことです。
住宅購入時には思いも掛けなかった生活環境の変化もあるかもしれません。繰上返済はあくまでも予備的な措置であって、「繰上返済ありき」の住宅ローン計画を立てることは非常に危険です。仮に繰上返済ができなくても借りたお金がきちんと返せるかどうか、ライフプランを踏まえて住宅ローンを組みましょう。